第10章 チャイムの鳴る前に
●リコ side● 〜図書室前〜
日向の言葉をきっかけに、黒子、リコ、伊月。
そして、小金井や水戸部にまで、再び緊張が走った。
「名前聞いて少しビビったぜ。
別に珍しい苗字じゃねぇーけど」
初めは薄らではあったが、この時にはすでに小金井と水戸部は確信を抱いていた。
ところが日向だけは、微塵も気づいていないようだった。
日向は少しハッとして、「はは~ん読めたぜ伊月」と挑発的な目で伊月を見下ろす。
「お前まさか“藤堂 天探し”とか言って
片っ端から“とうどう狩り”とか
してんじゃねぇーよな?」
着目点が間違ってはいるが、その考察がよぎるだけ日向も完全に鈍感なわけではないのだろう。
そして、「だとしたら巻き込まれて災難だな?黒子」と言いながら、日向は後輩の肩に腕を回した。
「お前知ってる?
バスケ強豪校のレギュラーだった女子が
誠凛にいるかもしれないんだとよ」
真相に気づいていないのは、実は日向(自分)の方だということに気付かぬまま、自信気にそう黒子に教える。
そして、女子生徒…藤堂 天が去った方にもう一度視線を向け、呆れた様子で言い放った。
「まさかさっきまでいた女子がその」
「ねぇ!」
小金井の声に、掻き消されるまでは。
いつの間にか小金井は、伊月の腕から解放され自由を取り戻していた。
「今のって、ポテチちゃんの声だよね?!」
小金井は、自信満々にそう告げた。
その後ろにいる水戸部も、賛同するように静かに頷いていた。
途端、日向が固まった。
それでも構わず小金井は、再び黒子に尋ねた。
「今そこで一緒にいた“とうどう”って子…
ポテチちゃんだよね?!」
リコや伊月も、否定しなかった。
「もう隠していても仕方ない」と、諦めがついたからだ。
カオスが“興奮”と“観念”に変わる。
その空間で唯一、日向だけが“困惑”にまみれていた。
「は??」