第10章 チャイムの鳴る前に
●リコ side● 〜図書室前〜
ひとまず最悪な展開は免れたが、「さてこれからどうしたものか」と、この状況を脱する方法をリコは考えていた。
そんな時、
「すみません藤堂さん。
ボク、キャプテンにお話があったの
思い出しました」
「『 え? 』」
という会話が、死角になってる廊下の先から聞こえてきた。
その会話にリコだけではなく、伊月も緊張を抱いた。
小金井と水戸部も、はっとしたように視線を上げていた。
しばらく考えが追いつかなかったが、すぐに黒子の考えに称賛することとなる。
確かにその方法なら、違和感なく藤堂 天だけを、この場から立ち去らせることができる。
当初の目的は果たせなくなってしまうが、背に腹は変えられない。
今はこの状況を、騒動を起こさないように収めることが何よりも最優先だった。
「なので、先に教室に戻っててください」
『え?会わせたい人ってのは?』
「すみません、それはまた今度にします」
『はぁ…』
藤堂 天に不審に思われたかもしれないが、それもやむを得ない。
今はただ、この地獄のような状況が早く過ぎ去ることを祈るばかりであった。
振り回してしまったことを申し訳なく思いながらも、「黒子くんがそれで良いなら良いけど…」という藤堂 天の声に、リコは心底ホッとしてしまった。
『んじゃ、あとでな?』
「はい、わざわざすみません」
黒子に一旦別れを告げた藤堂 天が、立ち去るというその時。
小金井がいっそう激しくもがいたのが分かった。
死角の先へと必死に手を伸ばしていたが、伊月は決して離そうとはしなかった。
こうして、一人分の足音が徐々に遠ざかっていく。
聞こえてくる音が小さくなるにつれ、リコと伊月を縛り上げていた緊張の糸は逸れ、力んで硬直していた身体中の筋肉が緩んでいく。