第10章 チャイムの鳴る前に
●日向 side● 〜図書室前〜
目の前にいる女子生徒が、藤堂 天とは知らぬまま、日向は全く別のことを不思議に思っていた。
リコと伊月が、自分に隠そうとしたこと…
正しくは隠そうとした人が、黒子だったということを。
なぜ隠す必要があったのかが分からなかった。
ところが、黒子と女子生徒の会話から、2人がこれから誰かに会おうとしていたことが読み取れた。
そこから日向は、ひとつの仮説を編み出した。
「会わせようとしてたのって…」
黒子が引き合わせようとしていたのは、他でもないリコと伊月だったということを。
だから2人は、自分が介入するのを拒み、最後まで引き留めようとしていたのではないか、と。
そんなことを考えながら、「もしかして…」と自分の背後にいるリコと伊月の方に振り返った。
通路と通路が重なり合う位置から、奥を覗き込んだ時。
リコと伊月は、案の定こちらをじっと見つめていた。
その眼差しは、恐怖しているような、焦っているような。
そんな感情を日向に向かって訴えかけてきた。
そして2人は、示し合わせたように首をブンブンッ!と横に振って、日向に何かを止めるように懇願した。
声はなかったが、その口元は揃って「だめだめだめ!」と言っている。
日向も口を開かなかったが、その目は2人に「なんなんだよお前ら…」と訴えていた。
日向は何かを察して、そちらを覗き込むのは止めた。
どういう理由かは知らないが、リコと伊月が「いまこの状態を見られるのは困る」と伝えたがっているように思えたのだ。
そしたら今度は黒子が、
・・・・
「すみませんとうどうさん」
と口を開いた。
この時日向は、リアクションこそ見せなかったものの、少々違和感を感じていた。
黒子が放った、そのたった一言に対して…
しかし、すぐ別のことに気を取られることとなる。
「ボク、キャプテンにお話があったの思い出しました」という、黒子の声ひとつで。
唐突なその展開に、不意を突かれた日向と女子生徒は、揃って「え?」と驚きを溢した。