第10章 チャイムの鳴る前に
●火神 side● 〜1-B教室〜
火神は振り返って、視線の先にいる黒子に声をかけようと肺に空気をためた。
火神はらしくもなく、他人である黒子に教えて貰おうとしたのだ。
“藤堂 天”_____知ろうともしなかったその人物が、一体どんな人間なのかを。
「なぁ、その藤堂ってやつ」
ところが、
「高木くん。藤堂さんのこと、見ませんでしたか?」
黒子は既に、別の人物に“藤堂 天”の所在を尋ねているところだった。
火神に対して投げかけたのと、全く同じ質問で…
高木と呼ばれた男子生徒は、黒子を前にして「うおぉ?!」っと驚きを露にしている。
その様子を目の当たりにした火神は、
「なんなんだよ…」
と口にして、不機嫌そうに前へと向き直ってしまった。
完全に、“藤堂 天”のことを聞き出すタイミングを逃してしまった…というのはもちろんだ。
ところが同時に、「知っているなら誰でもよかった」と言われたような気がした。
黒子が自分に声をかけ、“藤堂 天”のことを尋ねてきたのは「バスケ部である火神だから」では決してなく…
火神は、意味も分からず机の上に突っ伏してしまった。
一方で、
「あぁ、藤堂さんなら…」
黒子に藤堂 天の居場所を尋ねられた高木は、顔に驚きの色を残しながらもゆっくりと話し始めた。
黒子は、当たり前のように高木の話に耳を傾けた。
そして、それと同じ位当たり前に…
火神の「なぁ、その藤堂ってやつ」と「なんなんだよ…」を、しっかりと背中で盗み聞いていた。