第10章 チャイムの鳴る前に
●火神 side● 〜1-B教室〜
同時刻、自分の教室で何が起こっているのか知りもしない火神にとって、それはあまりにも突然のことであった。
「火神くん」
「んぁ?」
確かに、誰かに呼びかけられたはずだった。
しかし、不思議にもその声の主を見つけることが、火神には出来なかった。
火神の視界が、何度か教室内を右往左往した後…
自身が座る机の真横に、誰かがいることに気が付いた。
そして、“誰か”の顔を目の当たりにし、それが黒子だと気づいた時、
「うおぉ?!んだよてめぇ!!」
火神は体を大きく反応させながら、驚きを露にした。
いかに驚いたかを供述するように、机がガタガタッ!と音を立てる。
そんな火神を物ともせずに、黒子は「火神くん。藤堂さんのこと、見ませんでしたか?」と続けた。
動揺を隠し切れないながらも、火神の耳には黒子の言葉がしっかりと流れ込んできた。
そしてその瞬間、火神の脳内で昨夜の出来事がフラッシュバックした。
黒子と(偶然にも)鉢合わせた、夜の公園での1on1…よりも少し前。
部活終了後の体育館で耳にした、ちょっとした噂…
そして“藤堂 天”という名前。
その人物を、バスケ部が探している。
自分はもう少しで、それに巻き込まれるところだった。
火神は想像に容易いその煩わしさから逃れるため、真っ先にその場から立ち去った。
黒子が“藤堂 天”を探しているということは、自分が逃れたその問題に加担しているということなのだろう。
新しい日を迎えようとも、火神には加担する気は微塵も起こらない。
そして何よりも火神は、
「だからオレは知らねーっての…」
変わらず、クラスメイトの誰が“藤堂 天”なのかを、知らなかった。