第10章 チャイムの鳴る前に
●no side● 〜1-B教室前〜
「ボクから軽く事情を説明してきますので、
少し待っていてください」
そう言って1-Bの扉を開けて中に入っていく後輩の背中を、リコと伊月は見守る。
人の目を介して黒子の小柄な背中を見定めた時、大多数の人からしてみれば、何かを任せるには心許なく映ってしまうだろう。
しかし、リコと伊月にはどうしてだか、それがなくてはならない姿のように思えた。
“誠凛高校”という広義的な意味ではなく、“バスケ部”という狭義的な意味で。
途轍もなく影が薄い少年のことを、確信はないが、この時はなぜかそのように思えたのだ。
ところが、教室の中に進んでいくと思われたその背中は、教室の扉を少し潜って止まってしまっていた。
まるで、何かに足止めされたかのように。
「黒子くん?」
「どうしたんだよ黒子」
目の前の背中に向かって、そう声をかけるリコと伊月。
後輩を気に掛ける先輩の脚は、自然と一歩前進していた。
「いません」
「「 え? 」」
黒子は依然として、教室内を見渡している。
しかし、自身の声だけは先輩2人に届くよう、言葉を後方に飛ばした。
対して、不意を突かれたリコと伊月は、疑問符を浮かべる。
直前「ちゃんといますよ」と“藤堂 天”の所在を保証した黒子の口から、あろうことか、
「藤堂さんが、いません」
と、告げられたのだ。
・・・
二回目は、黒子の瞳はしっかりと、リコと伊月に向けられていた。