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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第10章 チャイムの鳴る前に


●no side● 〜1-B教室前〜


待ち焦がれた時間の到来を告げるように、昼休み開始のチャイムが鳴った。


その音を合図に椅子から立ち上がったリコは、直前の授業の片付けを投げ出して教室を出た。
直前、普段一緒に昼食を食べる友人に「先に食べてて!」と声をかけて。


リコが教室を出たタイミングで、伊月が「カントク!」という声と共に駆け寄ってきた。
伊月もチャイムが鳴ると同時に2-Aを飛び出し、2-Cにいるリコの元までやって来たのだ。


時間の惜しい2人は言葉もあまり交わさぬうちに、示し合わせたように駆け出していた。


こうして、「明日の昼休み、藤堂さんに会いに行きましょう」と黒子が宣言してから、早まる気持ちを抑えるのに必死だったリコと伊月が、1年校舎の1-Bの教室まで赴いた。
ほんの数か月前までは、自分たちのものだった校舎だ。


廊下を歩く1年生たちは、リコと伊月の背中を不思議そうに見つめながら過ぎ去っていく。
普段、別校舎にいるはずの上級生がいるためではない。
リコと伊月が、盗み見るように1-Bの教室内を覗き込んでいたからだ。


2人はそんなことも知らずに、廊下から1-Bの中を覗き見て黒子を探す。


結論から言えば、2人は黒子を見つけることが出来ず、例によって本人に声をかけられて合流を果たした。
自分を前にして驚く先輩2人を前に、黒子は「最初からここにいましたが」と、リコと伊月が到着した時から廊下にいた事実を暴露した。


「“藤堂 天”が…ここに」

「はい、ちゃんといますよ。藤堂さん」


伊月の感嘆にも聞こえる言葉を聞き逃さなかった黒子は、聞き手を優しく包み込むよう、そう口にした。
飾り気のない言葉でありながら、その口調は水鳥の羽のように軽やかで、かつ皮膚の下にじんわりと熱を伝えるような温かさがあった。


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