第10章 チャイムの鳴る前に
●黒子 side● 〜教室〜
黒子が視線を横に送ると、もちろんだがそこには藤堂がいた。
誠凛高校の制服に身を包み、学校の生徒、クラスの一員として同じ授業を受けている。
授業のシラバスに視線を落とすその横顔は涼しげで、昨日と変わらず平穏な学校生活を送る普通の少女に見える。
変わってしまったのは黒子の方だった。
昨日までは見えていなかったはずの輪郭が、藤堂を縁取って白く浮いて見える。
まるで、藤堂が存在しない1-Bの教室の背景に、他の写真から切り抜いた少女の姿を貼り付けているかのように。
違和感があるように黒子には見えた。
そこにいるはずの藤堂が、まるで違う世界からやって来た、自分たち人類とは別の何かのようだった。
黒子は藤堂を、そんな風に見たいわけでは決してなかった。
しかし、言葉とは力を保持するが故に残酷だ。
先輩2人の言葉により、望まずとも知ることとなってしまった藤堂の過去。
その際に使用された、藤堂を構築するための言葉一つですら異彩を放っていた。
言葉と言葉が絡み合うと、その異彩はより濃く、より白く、眩さを強めた。
「謎が謎を呼ぶ」ように、濃く白くなるほどに、本当の藤堂が見えなくなっていった。
開けただけで中身が分かる宝箱とはわけが違う。
隣にいるのは生身の人間であるということを、黒子は否応なしに思い知らされた。
しかし、藤堂のことを知らなかった過去には、どうしたって戻れない。
知らないふりをすることなど、黒子には出来ない。
自分がいる今の空間を、「藤堂が存在しない1-Bの教室」にはしたくなかった。
黒子は藤堂の友人として。
眩さに目が焼き潰されようとも、藤堂と向き合おうと決めた。
藤堂と過ごした時間を、偽物にしないために。