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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第10章 チャイムの鳴る前に


●黒子 side● 〜教室〜


黒子は国語の授業が好きだった。


現代文はもちろんのこと中学から古文が始まれば、過去の偉人たちの言葉に耳を傾け、思想を読み解くことに努めた。


単に文献や文章が好きだったためか、もしくは後天的に“国語”という授業を好きになったためか。
それはもう知りようがないが、黒子は日常的に文学作品に触れることを求めた。


いつからか通学時間すら惜しむようになり、学校まで足を進める黒子の手はいつも本を開いていた。
人によっては通学に支障をきたす程の所業だが、黒子はこれを難なくこなしてみせた。


黒子の時間と、目と手を偏に独占する本が、国語の授業中だけは教科書にその権利を明け渡す。
本人からしてみれば、それだけのことであった。


黒子は今まさに、高校一年生の現代文の教科書を開き、そこに掲載されている作品を目次で一覧した。


「え~と言うわけでですね。
 皆さんは一年間、
 この現国の授業を受けることでですね」


教師の一方通行な会話が、1-Bの教室に響く。
そんな中、黒子も一人静かに手の中の冊子の真新しさを実感すべく、表紙や背表紙を掌で撫でた。


いつもの黒子であれば、秘密の宝箱に満を持して鍵を差し込む時のように、心躍らせながら教科書とだけ向き合うことが出来ただろう。
未だ解き明かされていない謎や、歴史的大発見を目の当たりにするかもしれないという時に、誰が視線を逸らせると言うのだろう。


しかし、今日ばかりは違った。
普段は黒子を魅了してやまない宝箱を凌駕するほどに…


隣に座る藤堂が、教室で最も秘密に溢れた存在だった。


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