第9章 restart and redo.
●天 side● 〜自宅〜
ポテトチップスを食べる傍ら、明日の学校の準備も着々とこなしていく。
いま机の上には、必要なものが全て入っている鞄と、明日の朝の着替えが並んでいる。
完璧なまでのその徹底ぶりに、天は一日の終わりにちょっとした充実感と達成感に包まれた。
ポテトチップスを食べ終えれば、後はもう一度歯を磨いて寝るだけ。
…というタイミングで、今日一日でやり残したことがないかを振り返った。
と言うのも天は、
『そういやなんか忘れてる気がすんだよな〜』
帰宅してから今の今まで、ずーっと腑に落ちないでいたのだ。
自分が、忘れてはいけない何かを、忘れてしまっているような気がした。
思い出せないということは、そこまで重要なことではないのかもしれない。
しかし、どうにも収まりが悪い。
『今日一日』というパズルが、失ったたった1つのピースを求めて、苦しんでいるかのようであった。
「ほんと、何だろう…」と口にして、天はポテトチップスを摘んでしょっぱくなった指先を舐める。
その時だった…
『あ。』
自分の指を舐め上げた瞬間、天は「はっ!」と思い出した。
あたかもその行動が、トリガーだったかのように。
刹那に抱いた、その“違和感”。
今朝、今と全く同じ衝動に駆られたことを思い出した。
舐め上げた親指を見つめて、天はやっと気がついた。
失ったと思った、たった1つのピースのことを…
“爪切り”。
『買うの忘れた…』