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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第9章 restart and redo.


●天 side● 〜自宅〜


「え、まじで?」、「なんで?」、「てかいつから??」。
そんな言葉が天の脳内を、瞬間埋め尽くした。


事の真相は、割とすぐに解明した。


確かに初めは、“基本のハンバーグの調理法”を天は見ていた。


ところが、何のタイミングか、何の影響か。
料理本の“基本のハンバーグの調理法”のページは、天が目を離した隙にめくれていたのだ。


1ページだけ…


問題の“チンジャオロースの調理法”は、“基本のハンバーグの調理法”の1ページ先に掲載されていたのだ。
そして更に運の悪いことに、この2品が掲載されているスペースが、ほぼ一致していた。


「その時何をしていたか」によっては、すり替わったことに気づけないだろう。


ところが天は、「全体に火が通るようフライパンを振るいながら材料を炒めましょう。」の時点で、何かおかしいと感じていた。


おかしい、と疑問に思いながらも、天はその工程を実行してしまったのだ…
料理のことを「ただ本の通りにするだけ作業」と、考えていたためであった。


暗黒物質(ダークマター)という言葉は、まさに天が生み出してしまった「ハンバーグになれなかったそれ」を表現するためにあるのだろう、と思える。


天は元の材料からは考えられないほど、変わり果ててしまったそれを見続けた。
立ち尽くして見ているだけでは、その姿が変わることがなければ、戻ることもない。


自分の存在すら忘れてしまいそうになる空虚なキッチンで、一人呆然とする胸の中心が、チクリ…!と痛む気がした。


「せめて、食べてやらなければ」。
天はそう思った。


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