第9章 restart and redo.
●天 side● 〜自宅〜
今置かれている状況を見て、「備え付けの換気扇ではどうにも太刀打ち出来そうにない」と、天は判断した。
そして、部屋の空気を入れ替えるため、一番近い窓を開けに向かう。
虫対策に網戸を閉める際、天はふと空を見上げた。
自宅の玄関をくぐる前に見た時に比べて、空はすっかり黒く染まっている。
それでも、都会のビルや無数の家屋から漏れ出る光の影響で、少しも「暗い」とは思わなかった。
「違う世界に来たみたい」と零しながら、天は踵を返した。
・・
そして再びキッチンに戻り、改めてそれと対峙した。
ハンバーグの材料。
ハンバーグの調理法。
全て、本に記載されている通りにした。
であるならば、一体どこで何を間違ったと言うのだろう?
不思議と天には、なに一つ間違いない、という根拠のない自信があった。
実際は、実技も経験も皆無なのだが、料理のことを「ただ本の通りにするだけ作業」と考え、慣れてしまえばそう難しいことではないと思っていた。
だから天は、最上級の自信と共に、ページが開かれたままの料理本を覗き込んだ。
そこには、“基本のハンバーグの調理法”が記載されている…
…はずだった。
『ち…んじゃおろーす…?』
天が覗き込んだ先に待っていたのは、“チンジャオロースの調理法”だった。