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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第9章 restart and redo.


●天 side● 〜自宅〜


一方そのころ。


天は誠凛高校の体育館が、しばらく自分の話題で持ちきりになっていたとは想像もしなかった。


なぜなら天は今、文字通り自分のことで手一杯だったのだ。


『…何だ?これ』


ただならぬ様子でそう口にした天が目を見開く先には…


プスゥ…プスゥ…と妙な音を立てて、黒っぽい灰色の煙を上げる妙なものが置かれていた。


  『色々と事情があって…
   早く家に帰らないといけなくて』


放課後そう言って、黒子 テツヤからの誘いを断ったのは、その場しのぎの噓などでは断じてなかった。
その言葉が意味していたことは、天が今どこにいて、何をしているかを見れば一目瞭然だ。


天は今、


『私、ハンバーグ…作ってたはずだよな?』


自宅のキッチンで、慣れない自炊に励んでいたのであった。
学校から帰宅するその足で近くのスーパーで買い物を済ませ、腰を下ろす暇もなく自身の夕食の準備を開始していた。


本人が口にした通り、天の今夜の食事はハンバーグ…になるはずであった。


しかし、いま天の目の前にあるのは…


パラパラと纏まりのない、黒く無残な姿に変わり果てた、ひき肉や野菜(だったもの)…
頑張ってそれらしい形に整えたのに、玉ねぎと肉のマリアージュは崩壊し、火にかける前の形は見る影もない。


誰が見ても、それがまさか人が口にするものだとは考えもしないだろう。


そこそこ広いキッチンには黒煙が立ち込め、リビングにまで及び始めている。
シンクやコンロは、お世辞にも綺麗に使えているとは言い難い。


怪我こそしなかったものの、今ある全てを総合評価したら…


及第点にすら遠く及んでいないことは、天自身が一番分かっていた。


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