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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第4章 この道、桜吹雪につき。注意。


●藤堂 天● 〜校門〜


ピンク色に染まる道を通りながら、私はまだポテチを口に運んでいた。
久々に聞いたアップテンポの曲に、バリッ!バリッ!というポテチの咀嚼音が重なる。


『おっ…着いた着いた』


そうしているうちに、目的地が目前に迫っていることに気づいた。
ひと段落させるつもりで、ポテチを摘んでしょっぱくなった指先を舐める。


『あ。』


爪…伸びたな。


その時の私は、生まれて初めてかは分からないけど、滅多に感じたことのない感覚に違和感を覚えた。
原因を追求すべく、舐め上げた親指を見つめてそのことに気がついた。


指の腹側から見た親指の先端からは、三日月型の爪が覗いていた。
月が山を越えて浮かび上がっているのを見たのは、凄く久しぶりだった。


そういや、引っ越した後爪切り買ってねぇ。
夜まで覚えてられっかな?


帰りの買い物中に思い出せるように、頭の中の買い物リストに“爪切り”を強く焼き付けて、長い爪の間に舌先を挟み込む。
生活になんの支障もきたすことなく伸び続けた爪は、舌を滑らせるたびに同じ細胞から成る筋肉の塊に、ツーっと跡を残した。


その感覚には覚えがなくて。
それがすごく不思議で、変な感じだった。


今、私の目の前には、桜の木に囲まれた校舎。
真新しい校舎の外壁は真っ白で、陽の光を反射してキラキラと眩しかった。


そこにピンクの桜の花びらが舞う光景は、なんとも綺麗で。
つい先ほどまで、ポテチを取り込むことだけに夢中になったとは思えない口から、柄でもなく吐息が漏れた。


『ほぉ〜ぅ…』


ここが。
私の新しい世界。


これからの、私の当たり前。


そう思った瞬間。
何とも言えない高揚感が私を包み、自然に笑みが零れてしまった。


ほぉ~、なかなか綺麗な校舎じゃないか。
これだよこれ!こうじゃなきゃ!
さすが新設校、テンション上がる!


ポテチなしじゃ、こうはならなかったかもな。


バリッ!バリッ!と言う音を絶やす兆しの見えないまま。
私は校門から大きく足を踏み入れた。


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