第4章 この道、桜吹雪につき。注意。
●藤堂 天● 〜登校〜
自分の手元で音がした。
まさかと思うけど…
反射的に歩行を止めて。
恐る恐る、手元をチラッと見た。
『やっちまった…』
無意識だった。
ビニール袋に入っていたポテチの袋を開けてしまった。
『マジかよ〜…』
見下ろしたその先にあったのは、パンの袋じゃない。
ポテチの袋なんだ。
はいそうですよ。
昼食用とかなんとか言って、しれっとスナックも購入しましたよ!
コンビニ限定の大容量だよ!
『こんなことあって良いのかよ…?!』
自分の食欲を呪った。
でも開けちまったもんは仕方ない。
どうにかしないと。
一番いいのは、食べきってしまうことだろう。
開けたのは、幸か不幸かポテチ。
心配しなくても、食べ始めたら絶対止まらなくなる。
食べきるのは余裕だ。
でも問題なのはそこじゃない。
距離的に学校に着くまでに食べ終える気がしない、ということ。
もう一度言うけど。
開けたのは、幸か不幸かポテチ。
ポテチ食べながら学校に入る女子がどこにいるって言うんだ。
そんなの世界のどこを探してもいないだろ。
『畜生…大容量畜生。大容量…』
結論。
今は我慢して、落ち着いてゆっくり食べられる時を待つ。
それが一番いい。
だから今は、素直にポテチの袋をビニール袋に戻すとしよう。
…とは思うが、怖いもの見たさ。
改め“食欲”が、私の視線を“ブツ”へと誘導する。
ダメだと分かっていても、単純に気になる。
袋の中身が、もの凄く気になる。
だからダメなんだろうな。
袋の中に視線を落として、結局いつも失敗する。
気のせいなんだろうけど。
ポテチがこっちを見ている…!
気のせいなんだろうけど!!
『………』
完敗。
次に瞬間には、ポテチの香ばしい風味と、バリッ!サクッ!という音で、私の口内は満たされた。
まぁ、我慢はしちゃいけないって言うからな。
このとおり、ポテチごときに振り回されて。
ポテチごときに一喜一憂して。
ポテチごときに負けるような女子だけど。
ポテチごときでテンション上がるなら、安上がりでいいだろう。
だから私は、ポテチを摘んだ方とは別の手でプレイヤーを操作して、プレイリストを漁る。
アップテンポの曲の再生と共に、学校への歩行を再開した。