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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第9章 restart and redo.


●no side● 〜体育館裏〜


春の日差しに照らされながら、眠りこける藤堂から香ってきた苺の匂い。


呼吸と同時に鼻腔を通り、黒子の心を温かく浸食していく感覚が、今でも鮮明に思い出される。


そして今、黒子は藤堂の過去に触れ、恐らく多くの人が望んだであろう本来の姿を知ることとなった。
藤堂のいない空間において、やはり藤堂 天を望んだリコと伊月によって。


自身が信じられなかったのと同じように、過去と現実のあまりのギャップに、これまでも数多くの人間が藤堂の決断に驚愕と疑問を示したことが、黒子には容易に想像できた。


様々な憶測が飛び交い、決断を改めさせようとした人間もいたことだろう。
しかしただ一つ、確かに言えることは…


本来であれば藤堂は、誠凛(ここ)にいるような人材ではなかった、ということであろう。


ところが黒子は、自身がそう考察することを許さなかった。


なぜならば、強豪校の元レギュラーだった過去を藤堂の本来の姿だと認めてしまえば、今ある藤堂を否定することになってしまうからだ。


今朝、自身の前に現れた時に受けた印象、行動、声、言葉。
「それら全て偶像だった」と、吐き捨ててしまうようなものだ。


更に言うならば、黒子の前に現れた藤堂が、仮に本来の姿でなかったとしても。
バスケ部を通して知ることとなった、藤堂の過去が本来の姿なのであったとしても。


藤堂が隠したがっているのであれば、それは本来の姿を明らかにするよりも、もっと意味があるのではないだろうか?


少なくとも、今の黒子にはそう思えたのだ。


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