第9章 restart and redo.
●no side● 〜体育館裏〜
会わせてほしいと頼まれた相手が、「自身のクラスメイトで、隣の席に座る藤堂」ではなく。
「バスケ強豪校の、元レギュラーだった藤堂 天」だと知った時。
黒子は自分に問うてみた。
「それが本当に、正しいことなのだろうか?」と。
そして同様に、
「藤堂さんにバスケ部に入って貰いたいから。
とか…そういうのは無いですか?」
リコと伊月にも、真意を問うてみた。
「意地悪な質問をしている」ということを自覚しながら。
黒子には分かっていたのだ。
リコと伊月が、藤堂にバスケ部への関与を少なからず望んでいることを。
でなければ、いるかいないかも分からないような人間のことを、探し求めたりしないだろう。
だからといって、黒子には先輩2人を責めようなどという気は無かった。
強豪校の元レギュラーだと知っていたら、「勧誘するな」と言う方がまず無理な話だろう。
いま大切なのは、「勧誘するか、しないか」ではない。
「真実を語るか、語らないか」だ。
そんな黒子の考えに、リコは気づいたのだろう。
暗闇の先はおろか、自身の心さえ見透かしてしまうような黒子の眼差しを前にした時。
リコはいつの間にか、バスケ部の監督としての面構えになっていた。
「…正直に言うとね?」
仮に今ここで、「そんなことない」と言ったとしても。
黒子を欺くことは出来ないのだと確信した。
だから、
「その気持ちも、ゼロとは言い切れないわ」
包み隠さず、本心を打ち明けることにしたのだった。
それを聞いた黒子は…
光があまり届かない体育館裏の暗がりの中。
どこか、安心したような表情を見せた。
その表情はまるで、「良かった」とでも言っているかのようだった。
もしリコが、この時点で本当のことを言わなければ、
「ボクもそう思ってました。」
・・・
黒子もこの話をしなかっただろう。
過去に確かにあった、一つの真実のことを…