第9章 restart and redo.
●no side● 〜体育館〜
火神の壁のように大きな背中のせいで、前方の光景は全く把握できない。
しかし伊月は、直前に確認した出口までの最短ルートを、正確に進んでみせた。
リコと黒子が、その後に続くように割れた輪の中心を走る。
火神が前を行ってくれているおかげで、道には邪魔する物が一つもなかった。
伊月が火神の背を押すその最中、小金井の「ふぎゃ!!」という声が体育館に響いた。
輪を突き抜けるように足を進め始めた火神に、驚いたためであった。
小金井だけでなく、土田と水戸部も火神を避けるように一歩後退した。
日向の「おい!いきなり何なんだよ?!」と言う声が聞こえても、伊月とリコはお構いなしに、
「は、早くしないと
見回りの警備員さんが来ちゃうぞ~?!」
「部活初日にそれはマズいわよねぇ~?!」
と口にしながら腕に更に力を込めた。
こうしてリコと伊月は、それぞれ黒子と火神を連れて出口から体育館の外へと出て行った。
藤堂 天へと繋がる確率の高い人物を、優先的にバスケ部から遠ざけたのであった。
事実を知らない日向たち2年生は、
「なんだ…?あいつら」
「さぁ~?」
リコと伊月の行動に対し、首を傾げていた。
ところが、
「んあ!!てかほんとに時間ヤベェ!!」
リコと伊月、黒子と火神がいなくなった体育館に、またしても小金井の驚愕の声が響いた。
部活終了後であったにも関わらず長らく話し込んでいたため、体育館の使用時間が近づいていることに全員が気付いていなかった。
そんな中、伊月の言葉を信用した小金井が、体育館の時計を見たことで現時刻を目の当たりにした。
それがきっかけで、体育館に残っていた部員と新入生が一気に帰宅し始める。
先ほどの噂話…藤堂 天のことなどすっかり忘れて、足早に帰路につく。
つまり、後輩2人を連れ出すために伊月が咄嗟に見繕った口実が、たまたま役に立ったのであった。