第9章 restart and redo.
●no side● 〜体育館裏〜
一方、屋内の人工的な光が微かに漏れ出す体育館裏では、
「ちょっと~あのタイミングで
掘り下げるようなことしないでよ~…!」
「あいつらが絡むと、色々面倒なんだよ!」
リコと伊月が息を殺しながら、連れ出した後輩の内一人に詰め寄っていた。
動くたびに踏みしめる草のカサカサという音と、焦りと緊張で早まる2人の心音。
普段は小さく思えても、暗闇の静寂においては大きく響くように感じた。
それでも、2人は胸を撫で下ろした。
最後は少々やけくそではあったが、何とか他の2年生たちは巻き込まずに済んだ。
閉鎖的な体育館から抜け出し、外気の新鮮な空気を取り込んだことで、鼓動は徐々に落ち着いてゆく。
しかし、
「はぁ?何のことだよ…」
伊月に体育館から連れ出され、今は人気のない暗がりで先輩2人に詰め寄られている当の本人は。
なぜ自分が責められているのか訳が分からず、不審そうにリコと伊月を見下ろしていた。
そんな火神の隣で、黒子も同様にリコと伊月の顔を交互に見つめていた。
しかし、黒子は火神とは全く違う心情でいた。
なぜ自分が先輩2人に連れ出され、なぜ体育館裏へと行きついたのか、理由が分かっていたのだ。
そして、リコと伊月がこれから自分と火神に何を語り。
逆に何を聞いてくるのかも、大方予想がついていた。
それは全て、自身のクラスメイトで友人でもある、藤堂に関することに他ならなかった。
そんな黒子の予想を的中させるかのように、
「黒子くん。さっきの話を聞いてて
分かったと思うけど、」
リコが火神から黒子へと向き直り、再び静かに語り始めた。
邪魔する者も警戒する物も、何ひとつ無くなった現状に。
安心しきっているかのように、流暢に…
そして、
「あなたたちのクラスメイトの藤堂 天さんは、
バスケ強豪校の元レギュラーなの」
リコの口から、黒子に明かされた藤堂の正体。
そこに驚きは残っておらず、待ち望んだ答えを手に入れた安心感さえあった。
その代わり…
事実を受け止める覚悟の出来ていた黒子には。
隣に立つ火神の、息を呑む音が微かに聞こえた。