第9章 restart and redo.
●no side● 〜体育館〜
しかし、リコと伊月がそれを許さなかった。
このタイミングで火神が話を切り出せば、他の2年生たちにまで「藤堂 天は本当に誠凛にいる」という事実がバレてしまう。
そうなってしまえば、リコと伊月が2人だけで解決へと進もうとした決心が水の泡となってしまう。
この事実を知る人間が増えれば、藤堂 天が迷惑を被るかもしれない…
「それだけは、何としてでも避けなければならない」と、リコと伊月は考えていた。
いつかはバレることだとしても、それは決して“今”ではない…
とは言え、2人はどうすることも出来ず、
「その藤堂だとかいう」
「「 あぁあぁあぁ~~~!! 」」
事前に食い止める術を失ったリコと伊月の叫び声が、火神の声を掻き消した。
そんな原始的な方法で火神を止めたリコと伊月は、その勢いに任せるがまま次の行動に移った。
まずリコは、自身のすぐ傍に立つ黒子の腕を掴んだ。
「え?」
先輩の急な行動に戸惑う黒子だったが、質問している余裕はなかった。
なぜなら次の瞬間には、リコが黒子の腕を掴んだまま走り出していたのだ。
走り出しの瞬間…
自身の身体が素早く空間を切り裂き、風を切る音へと変化して黒子の耳を掠めていった。
黒子は自身の腕が引かれるがまま、どこに向かうかも分からずリコの少し後方を走るしかなかった。
一方で伊月は、同輩たちの傍に歩み寄った火神の元まで一気に走った。
部活終わりの体育館に、バッシュのキュッ!っと言う音が響く。
そして火神を目の前にした時、伊月はその大きな背中を両手で目一杯押した。
「うおっ?!」
見えない何かに後ろから押された反動で、火神が驚いたように声を上げた。
そして、得体の知れない力に押されるがままに、火神は歩き始めた。
・・・・
ある方向に向かって。
「な、何すんだよ?!」
そう言いながら、火神が後ろに振り返ると…
そこには、必死な様子で自身の背中を押している、伊月の姿があった。
そして、その少し後ろの方まで視線を向けると…
同様に必死な様子のリコと、困惑の表情を浮かべながら腕を引かれるがままに走る黒子の姿があった。