第9章 restart and redo.
●リコ side● 〜体育館〜
「藤堂 天さんのこと?」
リコのシンプル過ぎるその問いかけに対し、伊月は少し驚いた様子だった。
ハッ!としたような表情を見せたのも束の間…
すぐに、落ち着いた様子で「あぁ」と呟いた。
伊月は“ポテチちゃん”のことを実際に見た一人だ。
そして、その正体に真っ先に疑いを抱き、ついには確信を得た人物であった。
もしも今朝の部活動勧誘において、伊月が“ポテチちゃん”と出会わなかったのならば。
真相はもちろん、疑念すらも一生明るみにならなかったかもしれない。
「ポテチちゃんの顔を見ていないカントクに
こんなこと言っても説得力ないと思うけどさ…」
腰が引けたばっかりに、火付け役をリコに任せてしまった…
そのことに対し伊月は、不甲斐なさを感じていた。
しかし、後には引かない意志だけは硬かった。
増してやリコに感づかれたこの状況で、引き下がるというのはあまりにもおこがましい。
「俺の中では、ポテチちゃんと藤堂 天は
同一人物だってほぼ確定している。」
初めこそ「全ては“自分が蒔いた種”だ」と思っていた。
だから、追及するもこのまま収束させるも自分次第だと伊月は考えていた。
しかし、いざとなったら決心が揺らぎ、もう少しで自問の殻に閉じこもってしまうところだった。
伊月はそれを、リコに救われたのであった。
伊月が「自分が何とかしなければ」と思う一方、リコは「“乗り掛かった舟”だ」と…
自分の方へ差し出された伊月の手を、リコは掴むだけではなく引くことによって、同時に安心も与えた。
だから伊月は、
「だから、なんで彼女が誠凛に入ったのかが、
気になってしょうがないんだ…」
リコになら何でも話していいと思えた。