• テキストサイズ

宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第8章 すれ違いと疑念


●天 side● 〜帰路〜


買い物袋の持ち手が、天の指の付け根にキツく、そして深く食い込み。
節のしわを上書きするかのように、赤い線をくっきりと刻む。


血液が滞る苦しさと、手汗が湧き上がる不快感を抱きながらも、天は歩き続けた。


その視線の先…
真っすぐに続く一本道の奥の方に、天はあるものを見つけた。


気になって、目を凝らしてよく見てみれば…
人の集団がこちらに向かってやってくるのが見えた。


徐々に…しかし確実に近づいてきている。


10人…いや、十数人。
もしくはそれ以上の人数が、束になって走ってくる。


“走ってくる”ということに気付けたのは、遠くにいた集団がやけに早く自分との距離を詰めてきたためである。
また、見るからに走ることを目的とした服装をしていたためだ。


「運動向きの服装をした集団が、自分に向かって走ってくる」。
そのことに気付いた天は、歩道の隅に寄って集団が通り過ぎるのを待った。


駆け足で天の方へと距離を詰める集団。
その距離が狭まるのに比例して、天に与えられる情報も多くなる。


まず、集団は男女混合であるということ。
そしてその年齢層は低いということに天は気が付く。


先ほどまで遠くにいた集団は、早くも天の元まで辿り着き。
歩行を止めた天の横を通って、天が歩いてきた道を引き返すように走り去っていく。


男女混合の数十人の集団が、すれ違うように自分の横を通り過ぎて行くのを天は静かに眺めていた。


そして、その後ろ姿までも見納めた時。
天はその光景に見覚えがあることに気が付いた。


それは遥か昔のことであったか…
はたまた、つい最近まで身近にあったものかのように、自身の記憶の中にも“それ”は存在していた。


今のあれは…


恐らく“外周”だ。


/ 358ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp