第8章 すれ違いと疑念
●天 side● 〜帰路〜
何がなんでも、料理の腕を磨かなければ…
最悪(東京に)来る…母親が。
もしくは(地元に)連れ戻される…父親に。
自身の母…そして父の姿を思い浮かべながら、自宅へと歩を進める天の脚は。
無意識のうちに、その速度を上げていた。
一分一秒も惜しいのは、何も両親の影に怯えているわけではなく。
今の天が、単純に空腹を感じているためだ。
その証拠に、買い物袋のガサッ!ガサッ!という音に紛れ。
定期的にぎゅるるるぅぅぅ〜〜〜〜という音が、天の腹部を震源に鳴り響いている。
学校を後にする際、わずかに残していたポテトチップスで空腹を誤魔化してから帰路についたのだが。
流石に本腹が空いてきた天の胃袋は、制限なく鳴り始めたのであった。
そのため天は、スーパーで買い物をしている最中。
何度惣菜コーナーの陳列棚に手が伸びそうになっていたことか…
しかし、それでは意味が無いことが分かる程度に、天の理性は働いていた。
「これから自分は、自宅に帰って料理の練習をする」。
そう決意を固めた天の意思は強く、もう簡単には揺るがなくなっていた。
明日こそはコンビニに頼らず、弁当を持参して学校に行く。
その実現のため、天は帰路を急いだ。
そんな時だった…
自宅へと脚を進める天の前方から。
それはやって来たのだ…