第8章 すれ違いと疑念
●天 side● 〜1年B組〜
それは、昨年の全中において。
全ては男子バスケの決勝戦が発端だ。
それは天から見ても、決して気分のいい試合ではなかった。
帝光中は手を抜くだけでは飽き足らず、よりによって決勝の場であんなことをしたのだ。
天からしてみれば、虫唾が走る試合だった。
帝光中学バスケ部の、唯一無二の基本理念。
それは、『勝つことが全て』。
天も選手である以上、確かに勝つことを目標に試合に挑んでいた。
そのためには、時に信念を曲げるプレイをしたこともあった。
ただ…
帝光中の… ・・・・・・
もっと言えば、キセキの世代が見せた、決勝戦のあのプレイは…
スポーツマンシップのそれから、あまりにも逸脱していた。
子どものイタズラだとか、若気の至りだとか。
そんなに可愛げのあるものでは、決してない。
それはきっと、バスケをプレイする者たちへの“冒涜”とも取れるだろう。
そしてそれを、ただ見ているだけしか出来なかった黒子は。
キセキの世代がどれだけ強かろうが、天才と呼ばれたその5人を確実に軽蔑したはずだ。
そして、そのキセキの世代の6人目と呼ばれた、自身のことさえも。
天はそう思っていた。
そのはずなのに…
天には分からなかった。
黒子 テツヤはどうしてそこまでして、バスケを続けるのかを。
よりによって、天がバスケを避けて入学した高校で。
誠凛高校(ここ)で…
鼻先に突き出された疑念に目を瞑りたくなる。
それでも天は、
『黒子くん…』
自分と同い年の少年の影を失った空間に向かって、その名前を呼んでしまうのであった。
決して、目は逸らさずに…
誰もいない教室で、天の視線の先には。
黒く、そして濃い自分の影が。
長く、長く床に伸びていた。