第8章 すれ違いと疑念
●天 side● 〜1年B組〜
天は、
『おぉ、見学いっ…てらっしゃい?』
確かにそう言って、送り出した。
こういう場合においても、「いってらっしゃい」と言うのが正しいのかどうかに疑問を感じながら。
部活動見学へ向かおうとする、黒子 テツヤのことを。
バスケ部の元へ行こうとする、新しい友人のことを。
しかし、
『おいおいおいおい…』
天の内情は、穏やかではなかった。
むしろ、戸惑いすら感じていた。
「本気なのか?」と。
教室を後にしようとしている黒子を、天は静かに目で追った。
そして、教室から出て行こうとしている黒子の背中を見つめ。
その背中が、黒子本人によって閉められた扉の向こう側に、消えていくのを見届けた。
天からは、もう黒子の影さえ見えない。
『信じらんねぇ…』
・・・
始まりは…そう。
それは、今朝のHRでのことだった。
自身の目の前に、突如として現れたその少年が黒子 テツヤだと知った時。
幾度にも及ぶ考察の果て、天は一つの可能性を見出していた。
それは天自身が、バスケを避けて誠凛高校に行きついたように。
黒子 テツヤもまた、バスケを自ら遠ざけるために誠凛高校に入学した一人である、ということだった。
裏を返せば、天は想像もしていなかったのだ。
黒子がバスケを続けようとしていることを。
『あんなことがあったのに…』
なぜなら天は、そう思うに至る出来事を目撃しているのだ。