第8章 すれ違いと疑念
●黒子 side● 〜1年B組〜
黒子が、バスケ部に入部すると告げた直後。
『黒子…くんは、バスケ部に入るのか?!』
「はい」
この時、藤堂がなぜ驚いたような反応をしたのか…
それは黒子には分からなかった。
一方で、黒子が自分に向かって「バスケ部に入る」と告げたことが、本当だと再確認した藤堂は、
『そうか…』
とだけ口にした。
自信なさげに小さくなっていく声量に合わせるように、椅子から離れていた腰を下ろし。
黒子に向かって前のめりになっていた身体を元に戻す。
『そうなのか…』
「え?」
『いや、何でもない』
その気になれば、藤堂にその理由(わけ)を聞くことも出来ただろう。
しかし黒子はこの場において、会話の主導権を握る余地すら与えてもらえなかった。
そして、今さら与えられたところで、それはもう意味をなさない。
なぜなら、この話題は藤堂によって、半ば強引に終わりを迎えてしまったからだ。
それは、今の藤堂の姿を見れば歴然だろう。
藤堂には、目の前にいる黒子が見えているはずなのに。
またしても、その形影から視線を逸らしてしまっている。
さきほどまで黒子を見上げていた黒い瞳は、紫の閃光と共に黒子の前から姿を消した。
藤堂のその姿は、何だか…
会話をしているはずの相手から、目を背けているようで。
まるで、黒子にこれ以上追及されるのも。
追及するのもごめんだ、とでも言っているようだった。
そして、
『悪ぃな?期待に応えらんなくてさ』
「期待?」
『ほら、さっき
「どうせなら一緒に」って…』
自らが黒子に「バスケ部に入るのか?!」と尋ねたことを、無かったことにするかのように。
黒子が初め、自分をバスケ部の見学に誘おうとしていたことに話題を逸らした。