第8章 すれ違いと疑念
●黒子 side● 〜1年B組〜
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女子生徒である藤堂が、男子バスケ部のビラを所持し。
かつ、他の部活動の勧誘ビラを受け取らなかった理由。
「入らないんですか?部活」
『まぁ…そういうことになるかな?』
それは、学校の部活動に入部する予定が、藤堂には端から無かったためであった。
「学生であれば、部活動に所属して当たり前」という。
所謂“固定概念”により、黒子と藤堂の間に行き違いが生じてしまった。
ただ、今言えることは、
『色々と事情があって…
早く家に帰らないといけなくて』
「事情?」
『そう』
黒子と藤堂、どちらが悪いわけでもなく。
単に2人を取り巻く偶然と、タイミングのせいであった。
『だからあのビラも、話しかけられた時に
なんとなくで受け取っただけ、って言うか…』
「そうだったんですね」
この時、黒子は知ることとなった。
「部活に入るつもりがない」と告げた藤堂が、男子バスケ部のビラを所持していたのは。
度重なる偶然の中、たまたまそうなってしまっただけであることを。
今朝、ここ誠凛高校で交差しあった偶然が。
仮に少しでもズレていたのであれば…
男子バスケ部のビラは、他の部活のそれに簡単にすり替わっていたかもしれない、と言うことを。
いとも容易く変わってしまうような。
それほど危うい不確かな事実が、黒子の目の前を気まぐれに横切っただけ。
ようは、それだけの話だった。
今朝、藤堂の寝顔を見つめながら思った疑問の数々…
この子も、バスケをしていたのだろうか?
であるならば、なぜ女バスがない誠凛高校にいるのだろう?
なぜ先ほど勧誘を受けていた吹奏楽部ではなく、男子バスケ部のビラを持っているのだろう?
長らく待ち望んだ疑問に対する答えが、これでは黒子も報われない。
だからこそ、
「残念です」
黒子が放ったその言葉は。
せめてもの足搔きだったのかもしれない。