第7章 窓際で出逢い
●no side● 〜1年B組〜
?「マジか…私そんなに寝て」
そうは言うものの、口にしたセリフには似合わないほど、女子生徒の口調は落ち着いていた。
時間の経過に驚くのであれば、もっと相応しい反応があっただろうに、と黒子は思った。
黒子は時計を見つめる女子生徒の横顔を見ながら、「すみません」と言い始めて続けた。
「気持ちよさそうに眠っていたので
起こすのは心苦しかったんですけど」
?「いや…ありがと」
その言葉と共に、それまで時計を見ていた女子生徒の顔は、真っ直ぐに黒子の方を向いた。
しかしすぐに、バツが悪そうに視線を下げてしまった。
?「逆に…悪ぃな?
気を遣わせちまったみたいで」
「いえ、全然そんなこと」
女子生徒に対して「そんなことない」と口にしようとした黒子の内情は、やはり複雑だった。
目の前にいるこの女子生徒は、どうも他の同級生とは毛色が違う。
最初に出会った時に、黒子が抱いた印象のまま…
同い年には見えない。
口調も仕草も、大人っぽすぎる。
それはそうと…
黒子はあることに関して、言うか言わないかで悩んでいた。
言わなければ、女子生徒本人は気付かずに済むのだろう。
しかし、後々女子生徒が恥をかくよりはずっと良いと思い。
黒子は思い切ってその事実を口にした。
「…跡、付いちゃってますね」
そう言いながら黒子は、自分の左頬を指さしてみせた。
?「え…?」
それだけでは、上手く伝わらなかったのだろう。
だから黒子は再度、自身の左頬をツンツンと突っついてみせた。
黒子が見せたその仕草で、
?「あっ!!」
女子生徒も気付いたのだろう。
ぺチッ!という音と共に、女子生徒は自身の右頬を右手で隠した。
その顔がみるみるうちに赤くなっていくのは、多少乱暴に自身の頬を隠したためではないのだろう。
その様子を見て黒子は、「やはり教えるべきではなかったかもしれない」と後悔した。
黒子が声をかけるまで、自身の腕の中で眠っていた女子生徒の顔には。
その事実を知り得ない人でさえ、右頬を下にして眠っていたことが分かる程。
制服の跡がくっきりと、残っていたのであった。
黒子はそれを、女子生徒と対峙したその時から。
「伝えようか伝えようか」と、一人静かに悩んでいたのであった。