第3章 Reset. And...
●藤堂 天● 〜東京〜
まだ住み慣れない東京のマンションを出た私は、綺麗に整備された道を駆ける。
春の風景を切って進む。
東京の一画に切り込むように。
そこに住む大多数の人間にとって、いつもと変わりない光景でも、私の胸は自然と昂る。
朝、目を覚ました時の憂鬱は私の元を去った。
変わらない朝を迎えたという気分を置き去りに、暖かい春の風を切っていく。
脚は止まらない。止まれない。
この感覚には覚えがある。
私が絶好調の時の感覚だ。
この時だけは。
私は一瞬、疲れを知らない体になる。
ここから更に、自分の気分を上げる方法を私は知っている。
それは至極単純だ。
走りながらスカートのポケットに左手を突っ込む。
今から取り出す“これ”があれば、
私の気分は最高潮に…
最高潮…に…
『ん?』
私の脚はゆっくりとスピードを落とし、
その後完全に止まってしまった。
あるはずの物がない。
「そんなわけがない」と思いながら再度確認するも、そこにはやっぱり何もない。
あると思って疑わなかったのは、いつもならそこにあるはずだから。
けれど、ポケットに入れた左手は、目当ての物の形状をなぞることは無く、スカートの生地をゴソゴソと弄るだけだった。
『あれ?』
常に持ち歩いているんだ。必須アイテムだから。
カバンの中。
制服のポケット。
いろんな場所を探すけど。見つからない。
せっかく自分を奮い立たせて、モチベーション爆上げしてきたのに。
イヤホン忘れた。