第7章 窓際で出逢い
●no side● 〜1年B組〜
女子生徒の机の上に乗っていた紙は、何を隠そうバスケ部のビラだった。
黒子の目を引いたのは、デカデカと描かれたバスケットボールのイラストのせいだろう。
それを保持しているということは、女子生徒がバスケ部からの勧誘を受けた。
または、バスケ部に入部したかのいずれかということになる。
もしくは、その両方か…
黒子自身、バスケを続けることを決めた身として。
女子生徒に対する、“仲間意識”や“同士”という気持ちが、ここで生まれることとなった。
しかし、黒子はまたしても驚くこととなる。
黒子の目を引いたビラには、バスケットボールのイラストの他に…
・・
「男子バスケットボール」と書いてあったのだ。
目の前にいる女子生徒は、疑う余地もなく女子である。
それなのに、机の上にあるのは男子バスケ部のビラだけだ。
・・
また同時に黒子は、誠凛高校に女子バスケ部はないということを思い出した。
であるならば、この女子生徒は何者なのだろう?
黒子の脳内はまたしても、そんな疑問の数々で満たされてしまった。
この子も、バスケをしていたのだろうか?
であるならば、なぜ女バスがない誠凛高校にいるのだろう?
なぜ先ほど勧誘を受けていた吹奏楽部ではなく、男子バスケ部のビラを持っているのだろう?
聞きたいことは山ほどあった。
それでも、眠りについている女子生徒は、やはり気持ちよさそうで…
陽の光の中で、心地良さそうにしている。
それを邪魔するなど、黒子に出来るはずもなく…
今はただ静かに、女子生徒の隣…
黒子自身の席に座った。
なにより、女子生徒に問いただすことがあるとするならば。
それはきっと、友だちとして親しくなってからだと、黒子は思ったのであった。
その時…
窓から入り込んだ春風が、黒子の頬を撫でた後。
隣で眠る女子生徒の髪を、優しく揺らしていた。
先ほどまでは、校庭で見つけたただの少女だった。
しかし、今は違う。
あの時黒子が出会ったのは。
温かい春風に乗って舞い降りた、記憶を撫でるかのような懐かしい香り。
いま黒子の隣に座る、女子生徒からは。
優しく可憐に、記憶に足跡を残していくような…
甘い甘い…
苺の匂いがした。