第7章 窓際で出逢い
●no side● 〜1年B組〜
黒子の脳内に、今朝の出来事とその情景が映し出される。
春爛漫。
桜が咲き溢れ、黒子の行く道を美しく染め上げていたあの道で。
温かい春風に乗って、黒子のもとへ舞い降りた香り。
あの香りと共に現れた、不思議な雰囲気の少女。
そしていま、黒子の隣の席で乱れた机の上に突っ伏している、この女子生徒は。
間違いなく、あの時黒子が追いかけた少女に違いなかった。
紫が混じる黒髪が、陽の光で艶々と輝いている。
改めて机の上をよく見てみれば、黒子にとっても記憶に新しいもので溢れていた。
女子生徒の傍らには、通学カバンの他にお菓子が沢山入っているコンビニ袋。
そして、もちろん。
黒子が受け止めた、あのポテトチップスの袋も。
しかし、黒子は今になってやっと気づいたのだ。
女子生徒の様子が、何か変だとは思っていたのだが…
女子生徒は、眠っていたのだ。
スゥ…スゥ…と寝息を零しながら。
危機感もなく。
閉じた瞼の奥には、あの黒い瞳がいるのだろうか?
窓から差し込む暖かい春の陽に照らされながら、少女の長いまつ毛が、キラキラとした小さな輝きを放っていた。
それを見た黒子の顔には、自然と笑みが浮かんでいた。
自身の隣の席に座る女子生徒が。
目の前にいるその人物が、あの少女であるという確信を得たから。