第6章 偶然目があっただけ
●no side● 〜1年B組〜
その後、自分の席にヨロヨロと座り込んだ天は、両腕で自身の顔を守るようにしながら机に突っ伏した。
全ては、熱で赤くなっているであろう自身の顔を、周囲に見られることに堪えられなかったからである。
それだけの熱を帯びているということを…
「(熱い…!熱い…!!)」
天は、身を持って分かっていたのだ。
自身の腕で作った、一時的なその閉鎖空間が。
自分の吐息で暑くなっていくのが分かった。
この恥ずかしさの行き場が分からず、反動で身体が震えた。
穴があったら入りたかった。
さらに最悪なことに、天にとってこの事態は実に不都合であった。
これは単に、今日会ったばかりの同級生との間で、行き違いがあっただけ、と言うには収まらず。
クラスメイト…言ってしまえば、席が近い生徒との間で起こってしまったトラブルである、ということだ。
現に天は、男子生徒が自身の斜め前の席に座る生徒だとは、思いもしなかった。
共同生活を送るうえで、この滑り出しは非常にまずい。
そんなことを考えている間にも、天の腕の中の世界は暑くなるだけでは飽き足らず。
徐々にその酸素濃度を薄めていく。
呼吸の苦しさに耐えかねた天は、身体は机に任せたまま、顔だけ持ち上げて深く空気を取り込む。
同時に腕の中の世界を、新鮮な空気で満たし直した。
その時…
天の内情を、今最も乱している存在の。
問題の、その男子生徒の。
斜め前に視線を送ればそこにいる、その大きな背中を見つめた。