第6章 偶然目があっただけ
●no side● 〜1年B組〜
火神に向かって、視線を上げた少女。
見慣れないその顔は「全く見えない」とまでは言えずとも、半分以上が前髪で覆われていた。
そのため、行き場を探していた火神の視線は、ただ一点…
少女の左目を、一直線に見つめることとなってしまった。
その時、火神が目にしたものは…
黒い瞳。
切れ長の目。
瞳で煌めく紫の閃光。
陽の光が迸るような眼差し。
それは一瞬。
何の変哲もないこの空間に、未知の世界を広げたような…
身体を机に投げ、緩んだ表情をしていた人間と同一人物とは思えない程。
気迫あるその視線は、意思がこもっているようであった。
しかし火神には、目にした全てを言語化する力量こそなく。
目の前にいる少女は依然、友人圏外であった。
一方で、少女も困惑の顔をうかべている。
声をかけてくるわけでもなく、ただ視線を送ってくるだけの火神を、同様に不審に思っているのかもしれない。
火神を見上げた少女もまた。
半分閉ざされたその視界に、火神を映したのだろうか?
一瞬、沈黙が漂った…
挨拶もなしに始まってしまった、その関係。
少女がどうかは分からないが、基本他人に興味がない火神が、「クラスメイトに気さくに話しかける」なんてことが出来るはずもなく。
このまま状況に進展のないまま、時間だけが経過することが懸念された…
その時であった。
春風に煽られ、呼吸を取り戻したかのように。
2人の間の時が再び、動き始めたのだ。
火神…ではなく、少女が見せた変化によって。