第3章 Reset. And...
●藤堂 天● 〜自室〜
思い返せば、今朝は嫌なことばかりだった。
目覚ましはしつこいし。
ベッドの外は冬が待ち受けていたし。
フローリングに奇襲をかけられるし。
壁はある意味凶器だし。
もれなく寝不足だし。いや、それは前からか。
私から睡眠を奪うものも。
「季節間違ってんだろ」と文句を言いたくなるものも。
足を凍傷に追い込んだり、額を痛めつける凶器賃貸も。
全部嫌いだ。
それよりもだ。
そんな嫌いなもの達に足元を掬われて、いちいち躓いている…
自分が一番嫌いだ。
『はぁ…もうっ!
こんなへこたれてたらダメだっ!!』
額を壁から離した私は、両手で挟むようにして左右の頬を叩いた。
パチンッ!!と、爽快感さえ感じてしまうほど良い音が、私の頬から発せられた。
『…っ……つぅーー!!!!』
痛かった。思ったよりずっと。
無意識に力を入れすぎた。
あんな音が自分から発したのは聞いたことがなかったし、もう二度と聞きたくない。
でも、その一発が効いた。
叱咤は激励へと変化し、私は私を鼓舞することに成功した。
奮い立ったその熱を冷まさぬように、足早に姿見の前まで進んだ。
そして、目の前にいる齢15の少女に向かって喝を入れる。
『うだうだしてんじゃねぇよ!
お前は確かな目的を持ってここに来たはずだぞ!
さぁ、早く外に出るんだ!!』
私が声をあげれば、少女も同じように私を𠮟りつけてきた。
鏡の奥の少女は、思った通り、壁の凹凸のせいで額をほんのり赤くした間抜けな姿だった。
けれど今はそんなこと気にならない。
私も同じ姿なのだろうから。
「行ってきます」と言った。
口には出さないけど。
「行ってらっしゃい」は返ってこない。
声が聞こえないから。
バックを机から掻っ攫って、玄関のドアノブに手をかける。
一度、重い金属製の扉を押せば…
ガチャッ!という音と共に、隔てられていた家の中と外の世界が、ようやく1つになる。
明るかった。驚くほどに。