第6章 偶然目があっただけ
●no side● 〜1年B組〜
1年B組。
そう記された教室のドアを開けるため、火神は横開きのドアに手をかけた。
その時だった。
“ガラガラガラッ!”という、扉が開けられる音。
少しして“ピシャンッ!!”という音が、廊下に鳴り響いた。
「ん?」
その音につられるがまま、視線を少し左にずらすと、
?「大丈夫大丈夫!!アハハッ…!」
その先には、1年B組の教室の後方扉があった。
火神が前にしている、教室の前方の扉。
それと対になる位置で、それは起こっていた。
?「アァー、オレちょっとトイレ〜…」
「は?」
今まさに、火神が踏み込もうとした教室内から。
一人の男子生徒が飛び出して来るのが、火神には見えた。
そしてその男子生徒は、火神の後方を通って。
火神が来た道を逆走するかのように、“タッタッタッタッ”と、廊下の奥の方へ駆けて行ってしまった。
「なんだ?今の奴」
火神はそれだけ言うと、自身の身長と大差ない扉を慎重に潜って、教室へと踏み込んだ。
開けた扉を再び閉めると、自らの席を探すため、前方にある黒板へと足を進めた。
その際、教室内にいる生徒の視線が、徐々に集まってくることに。
気付いてなかったわけではなく、気にしないよう火神は意識していたのだ。
そして、座席を手早く確認すると、自分のものとなった窓際の席へ歩き出した。
連なる机の間を縫って。
火神にとっては物理的にも、心理的にも狭すぎるこの世界で、これから生活を送るうえで。
唯一「自分のものと」と言える、その一角に辿り着くという、
「ん?」
その時に。
火神は初めて気づいた。
図らずも教室中の視線を集めている、と思っていたのに。
それは憶測に過ぎなかったということを。
全員ではなかった。
自身の席に着こうとした火神の目の前に現れた…
散らかった机の上に、目を瞑って気だるげに身体を預けている。
その少女だけは。
しかし、
?「ふぃ〜〜〜…」
いくらこれから、共同生活を送るとは言え。
他人だらけの新しいコミュニティに、突如として晒されたその様相は…
火神から見ても、決して可愛げのあるものではなかった。