第6章 偶然目があっただけ
●no side● 〜???〜
こうして火神は華の高校生活を、決して穏やかとは言えない始まり方で迎えた。
朝の校庭において、一種の決意のようなものが固まった火神は。
その後は、一切の迷いなく行動することが出来た。
バスケ部への入部を決めたからには、もう他の部活に勧誘される筋合いはない。
もっとも始まりこそ、それが目的であったわけだが。
「であれば、さっさと入部するに越したことはない」と、火神はバスケ部のブースを探し始める。
しかし、校庭は全校生徒が集っているようなものだった。
部活一つにしても、見つけ出すのに骨が折れることは確実だった。
その時、聞こえてきたのは、
?「バスケ〜バスケ部〜!」
?「部員になって
ブインブイン 言わせよう」
新入部員を募ろうと、勧誘の声を上げる。
まだ見ぬチームメイトたちの声であった。
だから、
「あんたら バスケ部か?」
?「おぉ?」
その時声をかけた先輩に連れられ、火神はようやくバスケ部の元へと辿り着いた。
もっともその上級生は、直前の勧誘の押しかけのせいで機嫌を損ねていた火神に、連れていかれたも同然だったが。
以上の経緯により、火神は無事、バスケ部への(仮)入部を果たしたのであった。
ただし、“志望動機”に「バスケがやりたいと気づいたから」と書くわけにもいかず。
火神は「別にない」とはぐらかすしかなかった。
それに、過度な期待をしてまた絶望することになったら。
今度こそ取り返しのつかないことになる、と気づいていたから。
そしてバスケ部のブースを後にすると、未だ勧誘を受け歩行もままならない同輩たちを尻目に。
火神は一人、学舎へと脚を進めた。
今日、ここで取り戻した、自分自身が何を望み。
そして何を目指していくかの意思を、関門を突破した者の証明として。
身の丈に合わない日本の天井とか。
歩を進めるたびに自分に集まる驚きの眼差しとか。
あまりの堅苦しさに、着崩した新しい制服をうっとおしく思いながら…
火神は、指定された部屋の前に辿り着いた。
1年B組。