第6章 偶然目があっただけ
●no side● 〜???〜
かつて火神は、バスケに絶望するとまで言わずとも。
プレイに対する情熱を、保つ術を見失った。
それ以来、スポーツ団体や学生大会。
そういった類のコミュニティからは隔離されてきた。
当然の話なのだが、全ては己が身をプレイの場から遠ざけた、火神自身によってもたらされた結果だった。
そのような過去を持つうえで、喜々としてバスケ部に入部する方がおかしな話である。
ましてや進学早々、ただでさえ環境の変化が著しいというのに。
どう考えても、火神本人が。
「バスケ部に入部する」ということを、考えるわけがなかったのだ。
しかし…
仮にこの世に、“運命”と言うものが存在するのであれば。
それは火神の見えないところで、確実に回り始めていたことになる。
発端はどこからだ?
全ての始まりは??
火神が知りえないところで、既に何が始まっていたんだ。
始まりは…
春か?
それとも入学か?
始まりか、やり直しか。
過ちか、償いか。
渇望か、堪能か。
期待か、信頼か。
先輩か、後輩か。
願いか、諦めか。
嘘か、真実か。
真か、偽りか。
少年か、少女か。
もしくは…
鳥なのか。
誰に知られることもなく、どこかで加速を始めた運命の歯車は。
偶然か、必然か。
「オレはバスケ部に入んだよ!!
邪魔すんな!!」
止まっていた火神の歯車すら、動かし始めたんだ。
それが全て、“運命”とされるもので…
ランクUPに乗じて自分に用意された、チャンスなのだとしたら…
…とは、ならなかった。
“運命”などと、そんな風に美化せずとも。
火神は自分の気持ちに気付いていた。
“運命”などと言う不確かなものを、バスケをプレイすることの大義名分にする以前に。
もっと…
もっと、火神は単純で。
自らが口にした“バスケ”という言葉の響きが、己の心と共鳴するのを。
無視することなんて、出来なかったんだ。
だから…
己がついた嘘が、そっくりそのまま。
火神が誠凛(ここ)で生活を送る目的となり。
そして、人生(これから)の目標となった。