• テキストサイズ

宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第6章 偶然目があっただけ


●藤堂 天● 〜1年B組〜


手に残ったその赤に翻弄された私も、確かめた事実に強ばった体が解けていく。
赤くなったその手も、きっとすぐに元に戻る。


『でも、ほんとごめんな?』


“すぐに戻る”とは言ったけれど。
まだ赤を帯びているその手を見つめて、友人がその時味わったであろう痛みを思い浮かべた。


それを考えたら、“これで私は無罪放免だ”なんて思えない。


だから、何かないか?


「これでおあいこだね」と、友人の方から言ってくれるような、私に出来る謝罪が。


『なにかお詫びを…』


そう思いながら、ようやく友人の左手から視線を外し。
久しぶりに顔を上げた。


この後きっと、友人ご所望の“お詫び”なるものが私に要求されるんだろう。


「昼メシのパン買ってこい」だの。
「課題代わりにやれ」だの、なんでもいい。


それで友人が私を許し、変わらず友だちでいてくれるのであれば。


私が“許される側”である限り。
この友人のためなら、私はなんだってしよう。


…と、思っていたのに。


見上げたその先で、私が見た友人の顔は。


「もう大丈夫だよ」と、優しい嘘をついた時と同じように。
私の予想とは、違うものだった。


いつもと違…って言えるほど長い付き合いじゃないけれど。
早い話、数秒前まで見ていた、私のよく知った顔じゃなかった。


その代わりにそこにいたのは。
私が手を伸ばし、そして手に取ったその左手よりも。


赤く染まった顔だった。


/ 417ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp