第6章 偶然目があっただけ
●藤堂 天● 〜1年B組〜
“大丈夫”なわけがなかった。
私だって半信半疑なりに、自分の馬鹿力はそれなりに理解している。
それが他の人たちにとっては、もの凄く危険であるということも。
友人の手が、私のそれとは少しばかり造りが違うことは、見ただけで分かる。
そしてそれと同じか、ずっと分かりやすく…
その手が赤くなっていることは、見ただけで分かる。
『ちょっと見せて?!』
そう口にした私は、若干の焦りに駆られるままに。
赤くなった友人の左手を、彼の膝上から奪い取った。
その時の、「うわっ?!」っという友人の声は、ちゃんと聞こえていた。
しかし、私にはそれを気に留める余裕もなく。
友人の動揺も無視して、赤くなった左手を手に取り。
今度こそ、力の加減を間違えないように。
優しく…“優しく”を意識して。
友人がやってみせたように、右手でその左手をさすったんだ。
そして確かめた。
昔から“そうしていた”ように。
ある人物に言われてから、ずーっと自分の中で当たり前にしてきた。
「もし仮に、加減をミスって人を傷つけてしまったら。怪我の重度は手前(てめぇ)で確かめる」、ということを。
“自分はこんだけのことをしでかしてしまったんだ”と理解しろって。
“お前が自分で尻拭いしろ”ってことで…
『よかった…』
それを、“戒め”にしてきたんだ。
そして、誰に向かって言うわけでもなく。
私の口から溢れ出たように…
『骨はなんともないみたいだな』
こういうのは、経験ですぐ分かった。
「二度にわたり痛めつけないように」と、気を付けながら両手で包み込むように取った友人の手は、重症どころか健康そのものだった。