第6章 偶然目があっただけ
●藤堂 天● 〜1年B組〜
『ごめん!ほんっっっとに、ごめん!!』
私は即座に頭を下げた。
一瞬で“笑顔”から“苦しみ”へと変わった、友人の表情の変化に負けないほどに。
深々と…90度弱のお辞儀だ。
「数字では負けてる」とか言うなよ?
その分はちゃんと、口に出すことで賄ったつもりだ。
視界に映るもの全てが、直立している時より90度回転した世界の中で。
私は自分の馬鹿力を呪った。
そして、気がかりなことはただ一つ…
「これで嫌われちまったらどうすんだよ…」と言うことだ。
そうだ、いくら新設とは言え。
私が気にしているのは“教室の床”なんかじゃない。
今日できた、新しい友人のことなんだ。
だから平謝りの私は、体は依然90度に倒したまま。
顔だけを上げて、座っている彼の様子を伺おうとした。
まだ…痛みに顔を歪めているのだろうか?
私のせいで。
徐々に上げる頭と、伸びる首の皮の動きに連動するように、鎖骨が上向きに引っ張られる感覚があった。
鎖骨にかかった牽引する力が、そこを起点に私の肩を無意識に上げる。
こんな経緯で、結果「90度のお辞儀をしたつもりになっているだけ」に成り下がった私が。
上げた視線の先で見たものは…
痛みに苦しむ表情こそ消え去ったものの…
眉を顰め、「ははは…」と困ったように笑っている、友人の姿だった。
?「強烈な握手だったけど…」
そう言った友人は。
その時にはもう、左手を撫でていなかった。
笑っている…のか?
ほんとうに?
?「もう大丈夫だよ?」
そう続けた友人の表情は、笑ってはいるものの。
やはり、どこか困っているように私には見えた。
だからこそ、私の“違和感”ってものに容易く触れていったんだと思う。