第6章 偶然目があっただけ
●no side● 〜1年B組〜
自身が抱いた(傍から見たら悪質なその)“驚き”に、全ての感情を掻っ攫われた天の頭が。
突然起こった(“想定外”の)出来事の真相に辿り着くよりも先に…
男子生徒の左手が、彼女の手から、多少強引に離れたのだ。
『え…』
直前の叫び声に驚いてしまったために、完全に力を抜いていた天の左手は。
簡単に友人の手を離してしまった。
暫し、空虚に天井を仰ぐ左手の喪失感に唖然としていた。
しかし、他人の温もりを失った理由を追い求めた彼女は。
すぐさまその視線を、目の前に座る友人の方へと向けていた。
見下ろした視線の先で、男子生徒は…
引っ込めた自身の手を、もう片方の手で覆い隠している。
…と、天は認識した。
しかし、どうやら少し違うらしい。
なぜなら、分かりずらいが…けれど確かに。
彼女と握手を交わした左手を、右手でさすっているように見えるのだ。
そのため天は、男子生徒は単に左手を隠しているわけではない、と言うことにすぐに気がついた。
そして…
自身の左手を、庇っているようにも見えるその所作の狭間で、
?「…っ!痛ぇ〜…!!」
…と男子生徒が言っているのを、天は聞き逃さなかった。
だから、
『あ"っ…!!』
ここに来て、彼女はようやく事の状況を理解したのだ。
なぜ友人となった男子生徒が、突如として叫び声を上げ…
その顔を、今も苦しみで歪めているのかを。
真実を知った時、彼女は何を思っていたのか…
それを、彼女の声で。
藤堂 天の言葉で、お送りしよう。