第6章 偶然目があっただけ
●no side● 〜1年B組〜
その時起こったことは…
当事者たちに、コンマ数秒の時間の経過すらも感じさせなかったことだろう。
まさに一瞬のことだった。
天が、出会ったばかりの新しい友人の手を握ってから。
その友人が突然、“何か”に襲われたかのように、叫び声を上げたのは。
?「あぁあぁあぁ〜〜〜〜!!!!」
『っぎゃ?!!』
そして、突然の出来事だったのは男子生徒にとってだけではない。
本当に不思議ではあるのだが…
もう一人の当事者である、天にとっても同じなのだ。
・・・・・
明白な理由があるのにも関わらず、天にとっては男子生徒と同様、“想定外の出来事”だったのだ。
なぜなら天は、己が自身の想像している以上の怪力を保持しており。
そして今、その怪力を無意識に発揮してしまったということに、
気が付いていないのだから…
断片的ではあるが過去においても、周囲から口うるさい程指摘されていたにもかかわらず。
本人はその凶暴性と、そして悪質さに、未だ半信半疑なのだ。
だから、天本人からしてみれば…
「新しい友人が、人当たりの良さそうな笑顔を自分に向けてくれた」
「ところが、その顔が急に、何かに追い込まれたような苦しみの表情に変わってしまった」
「原因は分からないが、それを目の当たりにして自身も驚いてしまっている」
…という状況だ。
周囲からしたら、悪質極まりないだろう。
しかし。
あることをきっかけに、天はその“原因”が己であるということを知ることになる。