第5章 噂話
●相田 リコ● 〜校庭〜
その時、日向君の座っている椅子が、さっき座ったまま後ずさりした時とは違う力が加わって、ギシギシと音を立てていた。
「日向君。ひっくり返るわよ?」
その音が、なんだか椅子が悲鳴をあげているように聞こえて。
「うなだれる気持ちは分かるけど、それで怪我をされても困る」と思って、止めようと口を開いた。
その直後…
「それじゃあ、なおさら!」
今度は小金井君が口を開いた。
何を興奮しているのか分からないけれど。
私が視線を向けた時、伊月君と水戸部君より一歩前に踏み出していた小金井君は。
それ以上前に進めず、あたかも行き場をなくしたかのように長机に両手を置いていた。
「強豪のレギュラーだったなら、
バスケの知識が豊富とか、
そんなレベルじゃないだろ!」
まさか…
まさかとは思うけど、こいつ。
とんでもないこと言おうとしてない?
「それなのにバスケから離れるなんて
勿体ねぇーじゃん!!
なんとか説得して、男バスのマネージャーに
なってもらおうぜ!!」
ほら、やっぱり。
こうくると思った。
“選手がダメならマネージャーは?”ってことなんでしょうね…
安直過ぎて、さすがは小金井君って感じ。
褒めてないけど。
小金井君の気持ちは分からないでもない。
だけど、ただ思うのと口に出すのとでは、天と地ほどの差がある。
水戸部君の代弁をしていた時の方が、まだマシだったわね…
目の前の“口に出してしまった奴”相手に、なんて言ってやろうか。
そう思い始めていた時…
「本人は“マネージャーになってもいい”
なんて思ってないと思うぞ。」
伊月君に先を越されてしまった。