第5章 噂話
●相田 リコ● 〜校庭〜
「んじゃ日向はポテチちゃんが
誠凛にいるこの状況を
どうやって説明するんだよぉ~」
それでも小金井君は容赦ない。
いや、それは水戸部君なのかしら…?
「だ…だからそれは…あれだよ!」
日向君はそう言って、私に視線を向けてきた。
その目が、少しだけ縋っているように見えたのは。
私の見間違いではないんだろう。
「監督が言ってたじゃねぇーか!
“故障も考えられる”って」
「そのことなんだけどさ」
“ポテチちゃんがいるこの状況”を、どうしても“不可抗力(故障)”のせいにしたい日向君の声を、小金井君が遮った。
「故障が理由になるなら
そもそも部活自体が出来ないんだから、
女バスがないっていう条件で
進学先は絞らないんじゃないかな?」
「「 あ。 」」
その言葉で、日向君が…うんん。
私も、伊月君も気づかされた。
もう反発の一つも出来なくなってしまったんだ。
小金井君の言う通りだ。
故障なら女バスがない学校である必要は、最初からないんだ。
いくら周囲に望まれても。
そして本人が望んでも。
ポテチちゃんは選手にはなれない。
故障のせいで身体を動かせないんだから。
それじゃあ…ポテチちゃんは…
「故障してないよ。たぶん。たぶんね?」
まだ、プレイできる。
出来るからこそ、“女バスがない”って条件が必須だった。
女バスがないということ。
それは“プレイの場がない”ってこと。
つまり…
「経験者で故障なし。でも、強豪どころか
部活すらない学校に進学する理由なんて。
一つしかないんじゃない?」
“理由”。
たった一つ残った“理由”。
その時、横から見た日向君は「負けた」って顔をしていた。
ようやく「認めるしかない」って気づいたんだと思う。
全員の意見が一致した。
ポテチちゃんは…“藤堂 天”は…
そう、“藤堂 天”。
こんなに話題に上がってるにも関わらず、私は彼女の顔すら知らない。
会えるだろうか?
そのうちすぐに…誠凛(ここ)で。
当事者不在の中。
こんなことを言うのは変なのかもしれないけれど。
でも…
「…って、水戸部が言ってる!!」
私たち上級生が頭を寄せ合った、この論争だけで言えば。
水戸部君の一人勝ちだった。