第5章 噂話
●相田 リコ● 〜校庭〜
その場にいる全員の視線が、私の隣に座る日向君に集まった。
「いや…いやいやいやいやいや」
その状況に、居ても立っても居られなくなったのか。
日向君は両掌を顔の前で振りながら、器用にも椅子に座ったまま後ずさりした。
それに合わせて、日向君の座っている椅子がガチャガチャッ!と音を立てた。
「俺の“それ”と強豪レギュラーの“それ”が
同じなわけねぇーだろ!」
日向君の言う“それ”というのは、たぶん「進路の決定打」のことなんだと思う。
つまり、「確かに俺はバスケを辞めるつもりで誠凛に来たけど、それは中学時代に全く実績を残せなかったからで。それに引き換え、中学時代に即戦力で戦っていた奴の進路目的が、俺と同じわけがないだろ」ということで…
もっと言えば、「同じでたまるか!」ってことで。
だから、私の横で必死に否定しているのは、日向君なりの拒絶なんだと思う。
きっと信じたくないんだ。
「全国の舞台に立った“藤堂 天”は、バスケを辞めるために誠凛に来た」って可能性に。
過去に絶望を味わって。
やさぐれて、やけになって…
「バスケはもう辞める」と言っていた、過去の自分と全く同じ理由で。
全国経験者が、誠凛に入ってきたということ。
日向君も信じ始めてしまったから。