第5章 噂話
●相田 リコ● 〜校庭〜
ー同時刻ー
「でも、ポテチちゃんは間違いなく、
去年全中決勝に出場した
"藤堂 天" だ。」
「「「 藤堂…天 」」」
伊月君の言葉を復唱してしまったのは、私だけじゃなかった。
全員の“思わず”が重なった時、私の声に日向君と小金井君の声が重なって、一つの声となった。
その中で唯一、水戸部君だけが無言のままオロオロしているのが見えた。
"藤堂 天"。
聞いたことのない“人の名前”。
だけどそれは、もしかしなくても生身の人間で…
確かにこの世のどこかに存在している。
…もしくは、存在していた人間。
これほどまでに、真実の追求に重要な情報が、あるだろうか?
けど事実、それだけじゃまだ足りない。
重要なのは、“同一人物かどうか”の方。
本当に、伊月君の言う通り。
名前までハッキリと判明している、その全中決勝出場者の女の子と。
今日、伊月君たちがこの校庭で…たぶん初めて会ったであろうポテチちゃんが。
同一人物だとしたら…
本当に、ポテチちゃんが藤堂さん本人なんだとしたら。
なんで強豪校の肩書きどころか、女バスがない誠凛にいるの?
そんな疑問を持ったのは事実だ。
紛れもなく気になった。
だけど、それに対する回答は、どうしたって知りようがないことも分かっていた。
"藤堂 天"本人に、会わない限りは…
答え合わせは出来ないかもしれない。
そうは思っても好奇心が勝った。
それはおそらく、伊月君も同じだったんだと思う。
私は“理由”を探した。
解を与えてもらえないなら、自分で考える他ない。
超難問のパズルゲームをプレイする時みたいに。
解かれるのをただ待っているだけのパズル相手に、頭を悩まされているという事実を、否応なしに突きつけられた時のあの感じ…
“焦り”。
もしくは“苛立ち”。
そういった名前の感情を、使い回したような気持ちになった。
それでも私は探し続けた。
そこには、負の感情を押し殺すだけの、私のシンプルな願望があった。
それは、“真実への強い追求心”。
無視なんて出来るはずがない。
私は考えるしかなかった。
頭を悩ませるこの条件に見合うだけの、
納得のいく理由を。