第5章 噂話
●伊月 俊● 〜校庭〜
話している途中に、俺と同様その違和感に自分で気がつく日向。
それに対して、舞い上がっているせいか中々気がつかない小金井。
そしてその後ろで、片眉を上げて首を傾げる水戸部。
恐らくだけど、水戸部も事態の矛盾に気づいている。
「ちょっと落ち着きなさいって!
有力選手でも女の子で、
男バスには関係ないでしょ。」
「あ、それもそっか…」
小金井を納得させた監督の見解は、俺が思っているのとちょっと違っていた。
でも、小金井を一旦落ち着かせるのには最適だったと思う。
それに、監督はこのことに確実に気づいている。
監督がこの違和感に気がつかないなんて、100%あり得ないから。
「それにしても妙ね…」
「あぁ。全国の高校が喉から手が出る程
欲しがるであろう人材なのに」
「なんで誠凛(ウチ)に…」
「何故誠凛なのか」が肝であることに、監督、俺、日向の意見が一致した。
そしてそれに同意するかのように、水戸部が静かに頷いた。
「んぇ?なんでって…」
「むしろ何で気がつかないんだ」とは思わないことにした。
小金井が気づくのも時間の問題だろう。
そんなことを思い始めた時。
「あ。」という言葉が小金井の口からこぼれ出たのを、俺は見逃さなかった。
その、答えの最後に行き着いた合図とも言える声が、聞こえてきたのと同時に。
俺も見つけ出した。
やっとのことで。
俺ら4人の視線が、俺と水戸部の間にいる自分に集まる中、小金井は再び口を開いた。
恐らく、次に小金井の口をつくのは、最初の答えだ。
だから俺も言わないと。
最初の答えに次ぐ、二つ目の答えを。
つまりは、あの子の…
「 誠凛。女バス無い。 」
名前。
思い出した。