第5章 噂話
●伊月 俊● 〜校庭〜
柄でもなく騒いでしまったからなのか。
自分で制御する余地もなく動揺を見せてしまった俺に、小金井が不思議そうに後ろから問いかけてきた。
「間違いないって、誰のこと?」
「ポテチちゃんだよ!
あの子、只者じゃない。」
ことの重大さを伝えるのに効果的なその一言で、小金井に…
水戸部にも監督にも日向にも。
俺の枠を超えて溢れ出た絵の具が滲むかのように、少量の緊張の色が走る。
全員の視線が集中するなか、俺は気づいてしまった衝撃的な事実を打ち明けた。
“只者じゃない”。それ以外になかった。
ついさっきまで、ただの後輩でしかなかった年下の女の子が。
よりによって、バスケ部である俺たちの前に現れた、ポテチちゃんが。
「ポテチちゃんは、
去年の全中女子決勝に進んだ
強豪校のレギュラーだ!確か!」
「なっ!?」
俺の言葉に反応するように、監督が勢いよく椅子から立ち上がった。
後ろにいる小金井と水戸部も、多少驚いているようだけど。
どちらかと言うと、事態が飲み込めず「?」で頭を埋めているという面持ちだ。
唯一、日向だけは…
「はぁ?んなわけねーだろ」
全く信じていない。
だけど分かる。
信じられないのも、信じれない理由も。
「なんつったって誠凛には」
「いや、日向。言いたいことは分かるが、
これは冗談抜きだ。
月バスで特集組まれてたの確かに思い出した」
「え。それガチなのか?」
「あぁ、間違いねぇーよ」
ポテチちゃんに会った時、何故か見覚えがあるように思ったのにはちゃんと理由があった。
月間・バスケットボールマガジン。
別名「月バス」。
ポテチちゃんを知ることになったのはそれだ。
そのことを思い出すのにだいぶ時間がかかってしまったけど、思い出してからその先は早かった。
ポテチちゃんは、確かに月バスの取材を受けていた。
そしてそれは、ポテチちゃんがバスケ専用雑誌に載るほどの実力の持ち主だということも、必然と証明することになる。
これなら流石の日向も納得するに足りるだろう。
それにあの子はポテチちゃんじゃない。
最も、“ポテチちゃん”は俺たちが、名前の知らない後輩の女の子に、勝手につけてしまったってだけなんだけど。
たしか、あの子の名前は…