第5章 噂話
●伊月 俊● 〜校庭〜
監督と小金井の会話を聞いてると、未だに払拭しきれないモヤモヤが、俺の中に募るばかりだった。
変な感覚だった。
「帝光中の子がいたんだから、
他にも有望なのが紛れてるかもよ〜」
「そんな強豪出身が、
誠凛にゴロゴロいるとは思えないけどな〜」
「強豪?」
やっぱりまただ。
何かが変だ。
今日、この学校で起こっていることが。
この違和感の正体はなんなんだ?
それはきっと、「もう考えるのはやめよう」と無理矢理閉じ込めた好奇心が向かう先で…
確かに諦めようって決めたんだ。
だけどやっぱり、俺の直感が放棄することをどうしても許せなかったんだと思う。
そうなったら、自分ではどうしようもないんだ。
もう少しで。
もう少しで、何かが分かる気がする。
そう思った時…
「あ、もしかして。
キセキの世代複数人いたりして!」
「その“キセキの世代”とやらが勢揃いする
機会があるなら、
是非立ち会ってみたいもんだな〜
大会なら運良く拝めるか?」
「大会?」
根拠がなかった。
ないと思っていた。
だが、それは一度。
全てのピースが揃ったら。
もう迷いはなかった。
迷走のその先は、確信へ。
そして、俺に雷に打たれたような衝撃が走った。
「っ?!」
キセキの世代。強豪。大会。
あの時感じた既視感はこれか?!
今日、この学校で起こっている、普通なら考えられない出来事の正体。
それは、たった一人の生徒が持ち込んで来たものだ。
あの子は。
ポテチちゃんは…
「そうだ!
あの子やっぱり!!」
俺は素早く踵を返して、監督と日向のもとに引き返す。
「ん。どうした」
「伊月君?」
「見間違いじゃなかった!
どっかで見たことあると思ったら、
やっぱり間違いない!」
「「 ん? 」」
ブースに引き返した俺の背中を追って、小金井と水戸部も引き返して来るのを確認しながら、俺は話し始めた。