第5章 噂話
●小金井 慎二● 〜校庭〜
「仕方ないからマネージャーは二の次ね。
とにかくいまは選手探しよ!」
「「 うぃーっす… 」」
監督が御所望のようだから、そろそろ行きますか…
本来の目的(休憩)を達成した気が全然しないけど。
監督に早されたオレたちは、それぞれ空になった紙コップをゴミ箱に投げ入れ、ビラを持ち直した。
「ってことで勧誘よろしく!!
帝光中の子がいたんだから、
他にも有望なのが紛れてるかもよ〜」
その頻繁に出てくる“ていこう”って言う中学が、どれだけ凄いのかは知らないけど、正直1人いただけ幸運だと思っていた。
ほんとはゼロでもおかしくないのに、複数人求めるのは流石に夢見過ぎだ。
ここ創立2年目の新設校だぞ?
そう思いながら、オレは監督に返事を返した。
「そんな強豪出身が、
誠凛にゴロゴロいるとは思えないけどな〜」
「あ、もしかして。
キセキの世代複数人いたりして!」
オレの返事は全無視で、監督は呑気に「ふふふっ…」なんてしてるけど、だからそれファンタジーだって!!
まったく何言ってんだよ、ウチの監督は。
夢見がちなのはオレも大概じゃないんだろうけど。
「その“キセキの世代”とやらが勢揃いする
機会があるなら、
是非立ち会ってみたいもんだな〜
大会なら運良く拝めるか?」
監督が聞いてるかは分からないけど、そう言い残して勧誘へ向かおうと、オレらは一歩踏み出した。
…と思ったのだが。
踏み出したのは、オレと水戸部だけだった。
それに気づいたのは、オレではなく水戸部だ。
オレの先を歩く水戸部が立ち止まったから、自然とオレも足を止めた。
「……?」
「あれ?」
水戸部に言われて気がついた。
「伊月は?」
オレの前にいたはずの伊月がいない。
もしかしてと思って振り返ったら、伊月はさっきと変わらず、バスケ部のブースの前に立っていた。
なぜか、凄く驚いた顔をして。
「今日は伊月らしくないことが多いな〜」と思って声をかけようとした。
そしたら…
「そうだ!
あの子やっぱり!!」
オレよりも先に伊月が、普段の伊月からは考えられないボリュームで声を上げた。
今日が、その“普段”であるならば。
やっぱり、なにか変だ。